本草歳時記 17 桃仁
桃が美味しい季節です。スイカやメロンなどとともに夏を代表する果物です。今年は特に甘みが強く良い出来のようです。新潟の知り合いから送られた桃に連日舌鼓を打ちました。
この桃も実は大切な漢方薬の材料。桃から生まれた桃太郎ならぬ、桃から生まれた桃仁(トウニン)がそれです。果肉の中の固い殻に包まれた種を割ると、中に薄茶色の甘皮に包まれた種本体が現れます。桃仁は甘皮を去り二枚に重なった種を割り先端についた胚を除いたもので、油分に富み上品な香りを放つアミグダリンと呼ばれる成分を含みます。あんずの種子である杏仁(キョウニン)は杏仁豆腐の材料として知られていますがその上品な風味もアミグダリンによるものです。
調剤用としては軽く炙ったものを使います。桃太郎が犬・猿・雉を従えて鬼退治をしたように、他の薬を伴って体内で邪(生理機能に障害を与えるもの)退治に活躍します。油分に富むため腸管を疎通するとともに体内に滞った瘀血(おけつ)と呼ばれる古い血液を取り除きます。
女性は生理の関係で瘀血が滞ることがあり、それが生理不順、生理痛、子宮筋腫など様々な病気を引き起こすことがあります。瘀血という概念は西洋医学には無い東洋医学独特の考えで、その治療法があるというのは東洋医学の強みでもあります。
処方としては桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、桃核承気湯(とうかくじょうきとう)が有名です。これらはまた打撲、喉の腫れ、ニキビなどの鬱血の症状にも使われます。
子供のころ何かにかぶれた時おばあちゃんが桃の葉の湿布をしてくれたことを思い出します。桃には他にも秘められた薬効があるのかもしれません。
暑い夏もそろそろ峠を越えました。あと何回桃を食えるかな?