本草歳時記 13 牡丹
ゴールデンウィークは、日差しが強まり新緑の中色とりどりの花が咲き誇る、一年で最も気持ちの良い季節だ。残念なことに今年はコロナの緊急事態宣言が発令され、何とももどかしい休みとなった人も多かったのではなかろうか。
そんな中、私の楽しみは畑であった。一年で一番忙しく活気づくのがこの季節だ。夏野菜のトマト、ナス、ピーマン、シシトウの苗の定植、キュウリ、トウモロコシ、オクラ、枝豆の種まき、里芋の植え付け、今年は西瓜にも挑戦である。
今年は更に楽しみが増えた。同じ敷地内に花壇を借りることができたので、ここをささやかな薬草園にしようと目論んでいるのだ。
早速植えたのが牡丹である。数ある日本の花の中でこれほど豪華で優雅なものはない。
私はかつて新宿区下落合で開業しており、私の散歩コースのひとつに通称「ボタン寺」と呼ばれる薬王院があった。境内には多種多様な牡丹が所狭ましと植えられ、早いものは3月頃から花を咲かせた。ある遅雪の降った年、どっしりとした紅い花をつけた牡丹が雪降る中艶やかにたたずむ姿は今でも忘れられない。
牡丹の魅力は何といってもその花にある。ところが漢方では花より団子ならぬ花より根っこなのだ。その根は漢方薬で牡丹皮(ぼたんぴ)と呼ばれ、瘀血(おけつ)と言う体内に澱んだ古い血液の熱を除きそれを浄化する働きがある。処方としては婦人科で用いられる桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)や腎機能を改善し下半身の力を強化する八味地黄丸(はちみじおうがん)などが有名である。
根を太らせるために花は蕾のうちに切り取ってしまう。なんとも酷な話であるが薬効を高めるためにはこの反雅な行為も致し方ない所か。
コロナ禍により様々な制約を余儀なくされている。しかし私は、友人との付き合いや旅行など外に向かっていた心のベクトルが内面へと向かい、漢方にじっくり取り組めている。そして困難は自分の世界観をシフトさせるチャンスでもある。心の澱を浄化しリジリエントな心を鍛える機会でもある。明けない夜はない。
さあ、次は花壇に何を植えようかな。