本草歳時記6 カラスウリ 2002.12
晩秋から初冬にかけて樹々が葉を落とし始める頃、裸の枝にまとわりつくかのようにぶら下がる鶏卵ほどの紅い実。静の世界が少しずつ深まる中、もの枯れた趣を感じさせる風景である。その名の由来は明らかではないが、おそらく烏(からす)が好んで啄(ついば)むことに由るのであろう。夏には糸くずのように繊細な白い五弁の花を咲かせ、一夜限りの花が朝露に濡れ萎(な)えた姿もまた風情がある。山野から住宅地に至る様々な場所で見られ、東京在住の私でも比較的容易に採取できる薬草である。
実が紅く色づく頃が土瓜根(どかこん)と呼ばれる根を採る時期であり、茎を伝って地面を掘ると薩摩芋くらいの根塊(こんかい)が数個身を寄せ合うようにかたまっている。「大きなものだけを取り必ず一つは残す」との教えに従い、そしてどの動植物の場合もそうであるが、命を頂くことに感謝し必ず役立てることを誓う。水洗いして細かく刻み乾燥させたものは土瓜根散(どかこんさん)に配合され、子宮に滞った瘀血(おけつ)と呼ばれる古い血を除き、陰部の腫れものに対しても効果がある。
人体になぞらえると空中にぶら下がる紅い実は心臓を想わせ、茎を血管とすると地中の楕円形の根はどことなく子宮を想わせるから不思議である。太古の人々の智慧はなんと謎深いことか。