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本草歳時記7 牡蠣 2003.1

 

一月下旬は大寒の節にあたる。立春を前に一年の内で最も寒さの厳しい時である。この時季の食材を代表するものの一つに牡蠣(かき)がある。レモンをさっと絞り生でいただくのも良し、フライも美味い、でもやっぱり鍋かなと好みは尽きない。食べるのは中身であるが殻(から)だって捨てたものじゃない。そのごつごつした無愛想な殻に実は重要な薬効が秘められている。漢方では牡蠣(ボレイ)と称され桂枝加龍骨牡蠣湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)、柴胡加龍骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)などの処方に含まれる。緊張を和らげ、高ぶった気持ちを鎮め、不安を取り除く働きがあり、最近の研究ではマイナートランキライザー、いわゆる抗不安剤や安定剤と呼ばれる薬と化学構造が非常に近い成分が含まれていることが分かっている。ゴミとして捨てられてしまう殻を持ち帰り、一年ほど屋根上に放置し、強い日差しや風雨に晒(さら)す。更にこれを細かく砕き火で炙(あぶ)れば立派な牡蠣(ボレイ)の完成である。
古来の養生法に「冬時極寒萬類深蔵君子固密則不傷於寒」との訓えがある。冬の寒さが厳しい時はあらゆる生き物は地中深くに隠れる。これに習い良識のある者は部屋にこもり寒さを避けることで寒邪に罹らないとの意味である。寒さの厳しい折、温かい部屋でカキ鍋を囲み一杯やれば身も心もあたたまる。これも一つの養生法かも知れない。

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