本草歳時記4 山椒 2002.8
夏の土用(どよう)を迎え一年で最も暑さの厳しいこの時季、夏バテ解消にもてはやされるのが鰻(うなぎ)である。夏の土用は立秋までの十八日間を言うが、今年はその間に丑(うし)の日が二度あり、商店街では香ばしい煙とともにその売り込みの声にも力が入る。
この鰻の蒲焼に欠かせない薬味が山椒の実である。ミカン科に属し柑橘系(かんきつけい)の爽快な辛味が鰻のしつこさを抑え旨味を引き立てる。いくつかの漢方薬にも使われ「傷寒雑病論(しょうかんざつびょうろん)」と呼ばれる漢方の原典では、大建中湯(だいけんちゅうとう)、白朮散(びゃくじゅつさん)などに含まれる。大建中湯は腹中の冷えを除き下痢、腸閉塞などを解消し、白朮散は、子宮を温め気持ちを鎮(しず)めて流産を防ぐ。いずれも腹中を温める上で山椒が大きな働きを担う。しかし摂り過ぎは毒となり「気を損じ、心を傷(やぶ)る」と戒められ、事実食べ過ぎて命を落とした話を聞いたことがある。太古の人々はその点を心得て、薬として用いる際はわずかに炒(い)り、汗をかかせてその毒を除いた。
ある秋の日、正月用のお屠蘇(とそ)に使う山椒を探して山里を歩いていた時、まだ青い実をたわわに抱いた山椒を発見。近くの農家の許可を頂き一心不乱に取っていたその時、「ワンワンワン・・・・」と突然猛犬に吠えたてられ冷や汗が出た。しかし汗が出ても漢方に取りつかれた私の毒気は未だ抜けないようだ。