本草歳時記1 ふきのとう 2002.2
二十四節季のうちの大寒。一月末のこの時季は冬の最期の節にあたり寒さもクライマックスに達するが、既に発生の春へ向けた生命の胎動が始まっている。この時氷雪の下であたかも孕まれていたかのように柔らかな薄緑色の芽を出すふきのとうは、その様姿から冬を款(よろこ)ぶ花、款冬花(かんとうか)と称されてきた。およそ二千年前に著された漢方の原典の一つ「神農本草経(じんのうほんぞうきょう)」において、款冬花は頑固な咳、喘(ぜん)、咽喉の塞がりなどを治すとされ、そのほろ苦さが魅力のこの食物、いや薬草の気(き)・味(み)は、不思議なことに辛(しん)・温(おん)とされている。五味(ごみ)(酸・苦・甘・辛・鹹(しおからい))の一つである辛は五臓のうちの肺に働き、温は温める作用を示すのであるから、冬の寒さのために肺が冷えて生じた咳や喘を治すとされるのも合点がゆく。「神農本草経」に冠されている神農は、一日に七十回も毒にあたりながら草木を賞味し薬草の知識をもたらしたとされる伝説上の皇帝であるが、いずれにせよ膨大な時間と犠牲の末にこれらの智慧が得られたことは確かである。
玄春の味覚ふきのとうには冬の寒さを除き春に備える効果がある。ひょっとしてあのほろ苦さが‘辛い‘と感じられた時、それは時空を超えて太古の感性が蘇った瞬間かもしれない。